【包括型訪問看護療養費】現場に求められる「証明できる記録」とは?
2026年6月の診療報酬改定では、訪問介護において「包括型訪問看護療養費」の新設や「同一建物」居住者への評価の見直し、ベースアップ評価料の拡大が行われました。
中でも、報酬体系に「包括型訪問看護療養費」が新設された件は、現場にとって見落とせない改定です。
本コラムでは、包括型訪問看護療養費の新設に至った背景、現場の経営インパクト、そして「正しく訪問し、正しく記録する」を客観的に証明するための具体的な手段を解説します。
目次
「包括型訪問看護療養費」の新設に至った背景
2026年6月、訪問看護の制度に大きな変更が加わりました。
なぜ今、これほど踏み込んだ改定が必要になったのか、まずはその背景にある市場の動きから整理していきます。
背景① 訪問看護ステーションの急増
全国訪問看護事業協会の調査(2025年4月1日時点)によると、訪問看護ステーションの稼働数は全国に18,743か所あり、前年から1,414か所増えています。指定を受けた事業所数で見れば19,314か所にのぼり、前年から1,506か所の増加です。
2024年度中の新規開設は2,487件と、過去最多を更新しました。
急拡大する市場は、行政の目線を引き寄せることにもなります。
背景② 報酬の過剰請求を規制するため
有料老人ホーム等に併設する一部の訪問看護ステーションで、不自然な高額請求が見られるようになり、規制の必要性が高まりました。 その大きな引き金となったのが、2025年2月に発覚した東証プライム上場企業・株式会社サンウェルズ(本社:金沢市)の不正請求問題です(※行政処分は2026年5月時点で未確定)。同社の特別調査委員会は、「短時間訪問を30分と偽る」「1名訪問を複数名と偽る」などの手口で、総額約28億円の不正請求の疑いを概ね事実と認定しました。
この背景には「訪問回数を重ねるほど収益が増える」という制度の構造的な弱点がありました。
実際に、年間請求額2.5億円以上の事業所数は5年間で12.8倍に急増しており、厚生労働省は、2025年4月に指導・監査の基準を改正し、高額請求事業所への個別指導や抜き打ち監査を導入しました。
しかし、頻回訪問が必要な利用者を丁寧に支える適正な事業所ほど、請求額が高くなり、指導の負担が増えるというリスクも生じます。 やましいことがなくても客観的な証明を求められるからこそ、回数稼ぎの過剰訪問に歯止めをかけ、健全な事業所を守る仕組みとして「包括型訪問看護療養費」が新設されたのです。
「包括型化」で変わる3つのこと
2026年6月に新設された「包括型訪問看護療養費」は、現場の動き方をどう変えるのでしょうか。大きく3つの変化に整理して見ていきます。 では、現場にとって「理想的」だといえるシフト管理とは、どのような状態を指すのでしょうか。
① 算定単位が「1日単位」へ
これまでの1回あたりの算定から「1日」あたりの算定へと見直されました。従来の医療保険の訪問看護は「1回訪問するごと」に報酬が発生する仕組み(出来高制)でしたが、今回の改定により、「同じ建物に複数の利用者がいる場合、月にどれだけ訪問しても1日単位の包括評価になる」形へと変わりました。
ここで改めて、包括型訪問看護療養費の対象者や、算定条件についてもおさらいしておきましょう。
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▼対象
- 有料老人ホームやサ高住等に併設・隣接する訪問看護ステーション
- 末期の悪性腫瘍や難病等の方(いわゆる別表第七)
- 人工呼吸器装着等の方(いわゆる別表第八)
- 特別訪問看護指示書の対象者
- 夜間帯(18時〜翌8時)に各利用者へ1回以上の訪問
- 計画書・記録書の電子記録化
- 夜間帯に看護職員を常時1名以上配置
▼算定できる利用者
さらに、算定には以下の条件をすべて満たす必要があります。
なお、算定要件は厚生労働省の改定資料に複数の項目が定められています。
届出にあたっては、所轄の地方厚生局および最新の厚労省資料で要件の全体を必ずご確認ください。
報酬の水準は、単一建物に居住する利用者の人数と訪問時間によって決まります。以下は確定した報酬額の一覧です。
▼包括型訪問看護療養費(1日につき)
※「ニ」が算定できる「厚生労働大臣が定める場合」の条件
訪問看護ステーションが、緊急時に即時に適切な指定訪問看護を実施できる体制がある
- 包括型訪問看護療養費を算定する利用者全員の、訪問看護実施時間の1日当たり平均が120分以上
② 同一建物・短時間訪問のルール変更
また、「同一建物」の定義も、今回の改定で同一敷地内の建物も含まれ、厳密化されました。「短時間訪問」については、前回訪問の終了から2時間未満の間隔で20分以上30分未満の訪問を行った場合、原則として所要時間を合算して1回として計算されます。 20分未満の訪問は、基本療養費も加算も算定できません。
例えば、同一の有料老人ホーム内で午後2時に訪問し、午後3時30分に同じ利用者を再訪した場合。
2回ではなく、訪問時間を合算した1回として算定されます。従来の考え方とは大きく異なります。
③ 収益構造の見直し
業界では、従来型(1回単位)の高額請求モデルで月80〜90万円を計上していた事業所が、包括型の下では月30〜45万円程度に収束するという試算も出ています。ただし、これは業界内の推計であり、厚労省が正式に示した数値ではありません。実際の影響は事業所の規模・利用者構成によって異なります。 いずれにせよ、収益構造を見直さなければ経営が成り立たなくなる事業所は出てくるでしょう。
そして、この改定が促すのは「回数」から「中身」への発想の転換です。1日単位の評価になることで、何回訪問したかではなく、その訪問にどれだけ意味があったかが問われるようになります。
包括型の対象となるのは、末期がんや難病、人工呼吸器の装着といった、看取りや重度の医療的ケアを必要とする利用者です。
一人ひとりへの対応の密度が増していくなかで、「その訪問が確かに行われ、必要なケアであった」ことを記録で示せるかどうかが、これまで以上に重要になります。
監査で問われる3つのこと
制度が変わっても、変わらない考え方があります。
それは、「主治医が訪問看護指示書に訪問看護の必要性を具体的に明記している場合に限り、頻回訪問が認められる」という考え方です。
2025年4月の改正では、事前に記録を整える時間を与えないために「当日通知・抜き打ち監査」が導入されました。
選定基準に「1件当たり請求額が高額」が明示されているため、適正な訪問を積み重ねてきた事業所でも対象になり得ます。
では、監査では具体的に何が確認されるのでしょうか。
現場の経験から整理すると、下記3点となります。
① 「誰が」訪問したか
監査でまず確認されるのが、その訪問を「誰が」行ったのかです。訪問した看護師やスタッフが必要な資格を持ち、その事業所に正しく雇用されているか。記録の上で、訪問者を明確に特定できることが求められます。
サンウェルズの事例で「複数名訪問看護加算」の算定が問題となったように、「誰が訪問したか」は加算の根拠に直結します。
② 「いつ」訪問したか
次に問われるのが、訪問の時刻です。記録された時刻が、実際の訪問時刻と一致しているか。とりわけ、後から書き加えたものではなく、その場で記録されたものかどうか、タイムスタンプの信頼性が重要になります。
短時間訪問の合算ルールが入ったことで、開始・終了時刻の正確さは、これまで以上に問われます。
③ 「どこで」訪問したか
最後に、訪問先です。同じ建物に複数の利用者が居住する場合、一人ひとりの居室に確かに到達したことを示せなければなりません。
同一建物の定義が厳密化された今回の改定では、この「個別の居室への到達」の証明が、これまでになく重みを持ちます。
参考資料・出典
・一般社団法人 全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーション数調査」(2025年4月1日時点)
・厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】」(令和8年3月10日版)
・厚生労働省 近畿厚生局「訪問看護療養費の取扱いの理解のために」(令和3年度版)
・日本訪問看護財団「お知らせ」(2025年4月3日)
・日本経済新聞「サンウェルズの不正請求疑い」関連報道(2025年2月7日)、株式会社サンウェルズ適時開示
・GemMed(医療経営専門メディア)報道
・厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】」令和8年3月10日版 p41
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「誰が・いつ・どこで」を確かな記録として残す有力な手段のひとつが、ICタグを使った入退室記録です。
弊社の記録ソフト「Care-wing(ケアウイング)」は、スマホをICタグに「ピッとかざすだけ」で入退室記録が完了します。
- 看護師(ヘルパー)が身につけるICタグ
- 利用者の居室(ベッドや玄関など)に設置するICタグ
この2枚が接触することで、はじめて記録が成立します。その利用者の居室に到達したことを、客観的で確かな記録として残せる仕組みです。
看護師(ヘルパー)側と居室側、2枚がそろわなければ記録が成立しないため、なりすましや不正な記録を防ぐうえでも有効です。 入退室の時刻は自動で記録されるため、記録の信頼性を高めます。
また、IDやパスワードによるログイン操作を必要としないため、ログイン忘れや操作ミスによる記録漏れを防ぎやすくなります。 入力作業も最小限に抑えており、スマートフォンが苦手な方や、高齢のスタッフでも直感的に使えるように設計しています。
まとめ
2026年6月改定は、罰則の強化ではなく、適正な訪問看護への構造転換です。
真面目に取り組んでいる事業者を守る制度に育っていくためには、業界全体が「証明できる記録」を当たり前にする必要があります。
記録の質を上げることは、スタッフを守ることでもあります。 「私はちゃんと行った」という事実を、誰もが客観的に示せる環境を整えること。それが今、管理者・経営者に求められています。
今回の改正を機に、より堅牢なシステムと運営体制へ切り替えることは、将来的な経営リスクを減らし、同時に現場の業務改善を進めることにも繋がります。
Care-wingは、2009年の販売開始から、2025年5月時点で全国3,000を超える事業所様にご導入いただいています。
「導入してみたいけど、現場に合うかどうかわからない」という方は、まずは以下よりお問い合わせください。
<ライター> 宮田 浩行
介護福祉士7年、看護師8年、計15年以上の医療福祉経験を持つ専門家。
介護老人保健施設、看護小規模多機能、訪問看護、有料老人ホームでの勤務を経て、現在は医療福祉分野のライターとして活動。 介護と看護の両資格を活かした現場目線のわかりやすい記事で、医療福祉従事者の課題解決と質の高いケアの実践に貢献。
介護福祉士7年、看護師8年、計15年以上の医療福祉経験を持つ専門家。
介護老人保健施設、看護小規模多機能、訪問看護、有料老人ホームでの勤務を経て、現在は医療福祉分野のライターとして活動。 介護と看護の両資格を活かした現場目線のわかりやすい記事で、医療福祉従事者の課題解決と質の高いケアの実践に貢献。
