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【訪問介護】高齢者虐待防止とは?不適切なケアを防ぐ現場の視点

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「後にして」「何度言えばわかるんですか」。訪問先でつい口にしてしまったことはないでしょうか。
実は、厚生労働省の高齢者虐待対応マニュアルには、よく似た言葉が虐待の例として載っています。

「ちょっと待ってね」と言ったまま対応しないことは介護等放棄(ネグレクト)の例、「なんでこんなことができないの」と言うことは心理的虐待の例です。
ひと言だけで虐待と判断されるわけではありませんが、繰り返されたり日常化したりすれば、虐待と判断されることがあります。

この記事では、高齢者虐待の5類型と、令和6年度介護報酬改定で新設された高齢者虐待防止措置未実施減算を整理します。
そのうえで、事業所内で虐待を防ぎ、ヘルパー自身を守るための視点を紹介します。

訪問介護の現場で「虐待」が見えにくい理由


「1対1の密室」という構造的なリスク

訪問先の玄関を閉めた瞬間から、その日のケアが終わるまで、利用者の様子を見ているのは自分ひとりです。
これは訪問介護に共通する構造で、他の職員の目が届きやすい施設とは事情が異なります。

厚生労働省は、養介護施設従事者等(介護サービスの業務に従事する者)による虐待を毎年度集計しています。
令和6年度の相談・通報件数は3,633件、このうち虐待と判断されたのは1,220件でした。いずれも過去最多で、4年連続の増加です(令和8年3月公表)。 この統計の対象には、訪問介護のヘルパーも含まれます。

サービス種別ごとに見ると、「訪問介護等」の虐待判断件数は令和4年度30件、令和5年度35件、令和6年度49件と増えています。

ヘルパーが担う「2つの役割」

虐待防止の面で、訪問介護のヘルパーには大きく2つの役割があります。
1つは、自分自身が虐待やその手前にある不適切なケアを行わないことです。もう1つは、ご家庭内で養護者(ご家族など)による虐待が起きていないかに気づくことです。

この記事では主に前者、ヘルパー自身が加害側にならないための視点を扱います。

高齢者虐待の5類型と、訪問介護の現場で起こりうる例


高齢者虐待防止法第2条第5項第1号は、虐待を5つに分類しています。
法律上の虐待に当たる行為と、その手前にある不適切なケアは、次のように整理できます。

類型(法第2条第5項の定義) 法律上の虐待に当たりうる例 その手前の「不適切なケア」の例
身体的虐待
外傷が生じる、または生じるおそれのある暴行
介護がしやすいように押さえつける。ご家族の要望で自宅に外鍵をかけ、外出できなくする。 体位変換やおむつ交換の手が荒くなる。
介護等放棄(ネグレクト)
養護すべき職務上の義務を著しく怠ること
呼びかけに「ちょっと待ってね」と言ったまま対応しない。医療が必要な状態なのに受診につなげない。 時間内に終わらせるため、必要な確認を省く。
心理的虐待
著しい暴言や著しく拒絶的な対応など
怒鳴る。「なんでこんなことができないの」と言う。子ども扱いの呼び方をする。 「早くして」と急かす。聞こえないふりをする。
経済的虐待
財産を不当に処分する、不当に財産上の利益を得ること
おつりを渡さない。無断で使う。立場を利用して「お金を貸してほしい」と頼み、借りる。 買い物代行のお釣りやレシートの受け渡しを記録に残さない。

※スマートフォンでご覧の場合は、表を横にスクロールしてご覧いただけます。


※「法律上の虐待に当たりうる例」は、厚生労働省の高齢者虐待対応マニュアルに示された例をもとにしていています

法律上の虐待には「著しい」などの要件があります。ただ、法律上の虐待に当たりうる例の多くも、特別な悪意がなくても日々のケアの延長線上で起こり得るものです。 実際の分かれ目になるのは、「不適切なケア」の段階で止められるかどうかです。

悪意がなくても起きる「不適切なケア」と、その発生要因


「たったひと言」から始まる不適切なケア

冒頭に挙げたようなひと言が、思わず口をついて出そうになる瞬間は、多くのヘルパーに心当たりがあるはずです。
こうした言葉や、聞こえないふりは、心理的虐待の芽になり得ます。1つの言動だけなら些細に見えても、積み重なり日常化すると、利用者の尊厳を損なう「不適切なケア」に近づいていきます。

認知症介護研究・研修仙台センター他がまとめた事例集では、不適切なケアの積み重なりの先に虐待が位置づけられています。施設向けにまとめられた資料ですが、この考え方は訪問介護にも通じます。

なぜ起きるのか。知識不足だけでは説明できない発生要因

厚生労働省の調査では、虐待を行った職員の課題として挙げられた項目も公表されています。施設系サービスを含む全体の数字ですが、要因の並び方には訪問介護にも通じるものがあります。

最も多いのは「職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足」で75.9%でした。「職員の倫理観・理念の欠如」が64.3%、「職員のストレス・感情コントロール」が62.5%と続きます。
知識や意識の不足だけでなく、ストレスや感情コントロールの難しさも上位に挙がっている点は見過ごせません。

訪問介護に置き換えると、密室での対応が続く疲労感や、訪問時間内に終わらせなければという焦りが重なる場面が思い浮かびます。 「加害者は悪い人だ」と単純に切り分けられる話ではなく、組織の体制や負担の偏りが重なった結果として起きている面もあります。 誰にでも起こりうる構造だからこそ、個人の資質だけに原因を求めず、事業所全体で防ぐ視点が必要です。





虐待を防ぎ、ヘルパーを守るために事業所ができること


「違和感」を一人で抱えず、サービス提供責任者・チームへ共有する

訪問中に「あれ、様子がいつもと違う」と感じることは、ヘルパーだからこそ気づける小さなサインです。
こうした違和感を自分の中だけにとどめないことが、不適切なケアの早期発見につながります。
サービス提供責任者やチームに、その日のうちに伝えておきましょう。

ご家庭内でご家族の様子に違和感を覚えた場合も同じです。ご家族を直接問い詰めるのではなく、気づいた事実を客観的に記録します。 そのうえでサービス提供責任者やケアマネジャー、地域包括支援センターへ共有するのが基本の流れです。

特定の職員に負担を偏らせない組織づくりと定期研修

不適切なケアの背景にストレスや負担の偏りがあるとすれば、防止策の1つは組織づくりです。特定の職員に業務や精神的な負担が集中しない体制を整えておきましょう。

介護労働安定センターの令和7年度介護労働実態調査によると、訪問介護員の離職率は11.6%で、5年ぶりに上昇しました。
あわせて同調査では、人間関係を理由に辞めた介護職(全職種)の理由も示されています。45.8%が「上司・先輩の指導や言動がきつい、パワーハラスメントがあった」を挙げました。

厳しい指導や余裕のなさは、利用者への言動にも影響しかねません。研修の実施そのものは運営基準上の義務です。
その頻度について老企第25号は、指針に基づく研修プログラムを作り、定期的な研修(年1回以上)と新規採用時の研修を行うことが重要だとしています。研修を「受けたことがある」で終わらせず、定期的に振り返る機会として位置づけたいところです。

通報は「義務」であり、ヘルパー自身を守る仕組みでもある

違和感が「虐待かもしれない」という疑いに変わったとき、次に問われるのが通報です。 高齢者虐待防止法には、通報に関する条文が2つあります。

ご家族など養護者による虐待についての通報(第7条)と、事業所の職員による虐待についての通報(第21条)です。
第7条第1項は、生命または身体に重大な危険が生じている場合の通報を義務としており、それ以外の場合は、同条第2項で努力義務とされています。 一方、第21条第1項は、自分が働く事業所内で他の職員による虐待を発見した場合の規定です。
生命・身体の危険の有無を問わず、「速やかに、これを市町村に通報しなければならない」と義務づけています。

「言いにくい」「角が立つ」とためらう気持ちは、自然なものかもしれません。ただし第21条第6項は、守秘義務が通報の妨げにならないと定めて(虚偽や過失による通報は除きます)、第7項は、通報を理由とした解雇その他の不利益な取扱いを禁じています。通報は、ヘルパー自身を守る仕組みでもあります。

高齢者虐待防止措置未実施減算と4要件


高齢者虐待防止措置未実施減算とは

訪問介護事業所には、委員会の定期開催と結果の周知、指針の整備、研修の定期実施、担当者の配置の4つの措置が求められています。 令和6年度介護報酬改定では、これらの措置が講じられていない場合の減算が新設されました。

訪問介護の虐待防止措置は、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第37条の2に定められています。 令和3年度介護報酬改定で新設され、3年間の経過措置を経て令和6年4月から完全義務化されました。

求められる措置は4つです。

  • 委員会の定期開催と結果の訪問介護員への周知
  • 指針の整備
  • 研修の定期実施
  • 担当者の配置

※委員会は、他のサービス種別や身体的拘束等の適正化に関する委員会と一体的に開くこともできます

この減算では、4つの措置のうち、いずれか1つでも講じられていない場合、所定単位数の1%が減算されます。
対象は居宅療養管理指導と特定福祉用具販売を除く全サービスで、訪問介護も含まれます。
減算は、事実が生じた月の翌月から改善が認められた月まで、利用者全員に適用されます。
事実が生じた場合は、速やかに改善計画を都道府県知事等に提出し、事実が生じた月から3か月後に改善状況を報告します。

なお、同改定では、訪問系サービスにも身体的拘束等の原則禁止と、緊急やむを得ず行う場合の記録が運営基準で義務づけられました。 これらは本減算の対象ではありませんが、記録がなければ運営指導で指摘を受ける可能性があります。

4要件を形だけにしない運用を

4要件は、書類をそろえるだけでは意味を持ちません。ただし、指摘は書類の有無から入ります。 まず次の5点が手元にあるかを確認しておきましょう。
  • 直近1年の虐待防止研修の実施記録(日付・参加者・内容)
  • 新規採用者への研修を実施した記録
  • 委員会の開催記録と、結果を訪問介護員へ周知した記録
  • 虐待防止のための指針(最終更新日が分かる形で)
  • 虐待防止の担当者を明文化した文書

どれか1つでも空欄があれば、減算の対象になり得ます。 特定事業所加算を算定している事業所なら、加算側の研修計画や定期会議と一体で運用できます。記録の重複を避けるうえでも有効です。



※参考:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)/厚生労働省老健局「令和6年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」(社会保障審議会介護保険部会第134回資料3、令和8年3月9日公表)・「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」(高齢者虐待防止措置未実施減算)/厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」Ⅰ 高齢者虐待防止の基本・「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)第37条の2・「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」(平成11年9月17日老企第25号)/認知症介護研究・研修仙台センターほか「高齢者虐待を考える 養介護施設従事者等による高齢者虐待防止のための事例集」(平成20年3月)/公益財団法人介護労働安定センター「令和7年度介護労働実態調査」プレスリリース(令和8年7月29日公表)

まとめ


訪問介護のヘルパーには、自分自身が加害側にならない仕組みと、虐待に気づく側になる仕組みの両方が求められます。
「たったひと言」から始まる不適切なケアも、違和感を一人で抱え込まなければ、早い段階で気づきやすくなります。通報の義務は、ヘルパー自身を守る仕組みでもあります。

4要件は、日々の業務の中で無理なく回せる形にしておきたいところです。まずは今週、研修の実施記録と委員会の記録が1年分そろっているかを確認することが、最初の一歩になります。
不適切なケアを防ぐには、1対1になりがちな訪問の場面を、事業所全体で見える形にしていくことが助けになります。

弊社の「Care-wing(ケアウイング)」は、指示出しと報告の機能を標準で備えたサービスです。 個別の指示も、複数のヘルパーへの一括の指示も、サービス記録と関連付けて保存・閲覧できます。 誰にどう指示し、どう報告されたかが記録として残るため、1対1の場面をチームの目で確認する土台になります。

ご興味をお持ちいただけましたら、お気軽にお問い合わせください。




<ライター> 宮田 浩行
介護福祉士7年、看護師8年、計15年以上の医療福祉経験を持つ専門家。
介護老人保健施設、看護小規模多機能、訪問看護、有料老人ホームでの勤務を経て、現在は医療福祉分野のライターとして活動。 介護と看護の両資格を活かした現場目線のわかりやすい記事で、医療福祉従事者の課題解決と質の高いケアの実践に貢献。
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