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これって身体拘束? 訪問介護で迷うグレーゾーンとケアの工夫

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令和6年度からは、訪問介護にも身体的拘束等の原則禁止と、行う場合の記録が義務づけられました。 訪問介護では、拘束帯のような目立つ器具がなくても、言葉や環境、ご家族からの依頼によって、利用者の行動が制限されることがあります。

この記事では、迷いやすいグレーゾーン、例外となる3要件、拘束に頼らないケアの考え方を整理します。

※法令上の用語は「身体的拘束等」ですが、本文では「身体拘束」と表記します。

身体拘束とは?


身体拘束の考え方と、訪問介護への義務化

身体拘束とは、本人の行動の自由を制限することです。訪問介護の運営基準では、利用者等の生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為を行ってはならないと定められています。
縛る行為だけでなく「行動を制限する行為」全体が対象です。

行う場合は、態様と時間、心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録します。 この規定が訪問系サービスに加わったのは、令和6年度介護報酬改定にあわせた運営基準の改正です。2024年4月1日に施行され、経過措置はありませんでした。

なお、施設系や短期入所系に求められる委員会・指針・未実施時の減算は、訪問介護には課されておらず、求められているのは「原則禁止」と「行う場合の記録」です。

手引き(令和7年3月)が示す、在宅も対象という方針

厚生労働省は令和7年3月、「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」を示しました。 平成13年の「身体拘束ゼロへの手引き」を見直し、在宅サービスの事例を補足したもので、在宅の介護事業所とご家族等も対象です。

縛る、ベッド柵で囲む、ミトン型の手袋、自分の意思で開けられない居室への隔離など11の行為が例示されています。
ただし「あくまでも例示」とも書かれています。

拘束が生む「悪循環」という弊害

手引きは弊害を3つに整理しています。

  • 身体的弊害: 関節拘縮、筋力低下、褥瘡。拘束から逃れようとしての転倒・転落・窒息
  • 精神的弊害: 尊厳の侵害、不安・怒り・あきらめ、認知症の進行やせん妄、ご家族の罪悪感
  • 社会的弊害: 職員の士気低下、事業所への不信

手引きではこれを「拘束が拘束を生む悪循環」と呼びます。
動けなくなった方がさらに弱り、さらに拘束が必要に見える流れです。

訪問現場に潜む「無自覚な身体拘束」3つのグレーゾーン


訪問介護で迷うのは、悪意のない関わりの中に紛れ込むものです。3つの場面を、架空の例で見てみます。

言葉による行動の制限(スピーチロック)

朝の訪問で、次の家に向かう時刻が迫っています。本人が動こうとするたびに、つい「ちょっと待って」「座っていて」を繰り返してしまう。焦る気持ちは、現場にいた私にもよく分かります。 ただ、言葉だけで本人の動きを止め続けることも、行動の制限にあたり得ます。手引きにも、スピーチロックを身体拘束と捉え、言葉の言い換えに取り組んだ事業所の事例が載っています。

転倒を防ぐ一時的な声かけまで、直ちに身体拘束になるわけではありません。迷ったときは、次の点を見てみましょう。

  • 何のために、どのくらいの頻度と時間で続いたか
  • 本人が実質的に動けなくなっていないか
  • 動きたい理由を聞いたか

言い換えの一例は「ズボンを上げたら、一緒に立ちましょうね」。理由と次の動作を伝える言い方です。

環境による行動制限

「転ばないように」と、杖を下駄箱の上に置いて帰る。善意の行動ですが、利用者は杖に手が届かず、動けなくなります。
自力で動く機会が減れば、筋力低下につながります。帰り際に、杖や歩行器が本人の手の届く位置にあるかを見る。これだけでも、環境による制限に気づくきっかけになります。

ただし、常に手元に置けば安全とも限りません。置き場所は本人の移動能力と訪問介護計画に沿って決め、迷えばサービス提供責任者に相談します。

ご家族の依頼による板挟み

「目を離すのが怖いから、部屋の外から鍵をかけておいてください」。こう頼まれて、返事に困ったヘルパーもいるはずです。
手引きでは「家族が行う制限も身体拘束に該当する」としています。ご家族の不安は責める対象ではなく、ご家族自身も支援が必要な立場です。

同時に、ご家族に頼まれたとしても、ヘルパーが外から鍵をかければ、原則として事業所による身体拘束にあたります。ご家族の依頼や同意は、例外の理由になりません。 その場で引き受けず、断り切れずに悩まず、まず管理者へ報告する。この流れを事業所の決まりにしておくと、ヘルパーが一人で背負わずに済みます。

ご家族による施錠が続く場合は、ケアマネジャーや地域包括支援センターと連携します。
高齢者虐待防止との関係は、以下の記事をご覧ください。






「これは例外」とされる場合の緊急やむを得ない3要件


3つすべてを満たすことが条件

目指すのは、拘束をしないケアです。運営基準上の例外は「緊急やむを得ない場合」で、手引きは次の3要件をすべて満たすことが必要だとしています。 「原則禁止、例外は3要件をすべて満たす場合のみ」と押さえておきましょう。

要件 手引きの定義 確認したいポイント
切迫性 本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと 「危ないかも」という漠然とした不安ではないか
非代替性 身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないこと 声かけや環境調整など、他の手段を試したか
一時性 身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること いつまで続けるのか、見直す時期は決まっているか

※スマートフォンでご覧の場合は、表を横にスクロールしてご覧いただけます。


判断の軸は、ご家族の希望ではなく、本人または他の利用者等の生命・身体の危険がどれだけ差し迫っているかです。一つでも欠ければ、例外にはあたりません。

一人で判断しない。組織で確認し、記録を残す

手引きは、3要件を満たすかどうかを組織で話し合い、慎重に確認するよう求めています。
この確認は「本人の尊厳を守るためのプロセス」だと位置づけられています。

記録に残すのは、次の3点です。

  • 態様および時間
  • その際の本人の心身の状況
  • 緊急やむを得なかった理由

この記録は、完結の日から2年間保存します。自治体の条例で5年などに延ばされていることがあるため、指定権者の条例も確認してください。 運営指導や監査で提示できるよう、すぐ取り出せる状態にしておきます。

訪問中に差し迫った危険が起きたときは、話し合いを待てないため、救急要請が必要な場面はまずそちらを優先し、事業所の緊急時手順に従います。 そのうえで行動を制限せざるを得なかった場合の対応例を挙げます。

  1. 安全を確保し、制限は必要最小限・最短時間にとどめる。
  2. 管理者へすぐ報告し、状況と試した代替策を記録する。
  3. その後、関係職種で再評価する。

記録は拘束を許すためのものではなく、「本当に例外だったか」をあとから検証するためのものです。

「例外だから安心」にならないために

例外として認めた後も、確認は続きます。手引きは、3要件に該当するかを常に観察・再検討し、該当しなくなれば直ちに解除するよう求めています。 訪問ごとに継続の必要性を見て、事業所として定期的に再評価する運用が望まれます。

また、本人とご家族に身体拘束の内容、目的、理由、時間や期間を詳しく説明し、理解を得るよう努めることも求められています。 同時に「家族の同意は、身体拘束を認める根拠にはならない」と明記されています。説明は手続きの一部であって、要件の代わりではありません。

身体拘束に頼らないための3つのアプローチ


①「なぜその行動をするのか」を探る

行動には、多くの場合、理由があります。トイレに行きたい、不安、痛み、役割を失った寂しさ。認知症の行動・心理症状(BPSD)も、本人の困りごとのサインとして読み解けることがあります。

架空の例を挙げます。夕方になると玄関へ向かい、「家に帰る」と言う80代の利用者がいます。「危ないから座って」と止めるほど、落ち着かない様子が強まりました。

理由を探ると、ご家族の帰宅を待っていたと分かりました。「お茶を入れて、一緒に待ちましょうか」と声をかけると、落ち着いて過ごせる可能性があります。 体調や痛みが隠れていないかは、訪問看護や主治医とも情報を共有して確かめます。分からないときは観察した事実を記録し、次の訪問につなぎます。

②ご家族の不安に寄り添い、事業所として説明する

「それはできません」と断るだけでは、ご家族は孤立します。まず、不安の中身を聞くことから始めます。 そのうえで、拘束の弊害と、代わりになる手段を一緒に探します。自治体や地域包括支援センターの見守り登録、近隣への共有、福祉用具、サービス内容の見直しなどです。 説明役は、ヘルパー個人ではなく、管理者やケアマネジャーが担うほうが現実的です。

手引きの事例では、行方不明をきっかけにご家族が玄関に本人の開けられない鍵を設置し、本人は閉じこもって怒りっぽくなりました。 見守り登録と近隣への共有を提案され、鍵を撤去したところ、1か月ほどで庭の草取りを再開し、笑顔が戻ったとあります。

③迷ったら一人で抱えず、小さな単位で話し合う

手引きでは在宅のポイントとして、本人を中心とした小さな単位で協議する体制を挙げています。緊急の場面を事前に想定しておくことも、あわせて求めています。

事業所では、申し送りやカンファレンスで「これって拘束かな」と口に出せる雰囲気が、早めの気づきにつながります。
迷った場面は記録に残し、管理者へ伝える。個人の責任にせず、気づきを共有する仕組みとして扱うと、ヘルパーが一人で判断しなくて済みます。 報告のときに共有する項目を事業所で決めておくと迷いません。

<一例>
  • 本人がしようとしていた行動と、その理由として考えられること
  • 具体的にどんな危険があったか
  • 試した代替策と、その結果
  • 制限した場合は、開始と終了の時刻(法定の記録3項目はこれとは別に残す)
  • 報告先と、次に見直す時期

法定の記録ではなく、事業所で判断をそろえるための内部項目です。


※参考:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号。最終改正 令和6年厚生労働省令第16号)第23条・第39条/厚生労働省老健局「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)/ 社会保障審議会介護給付費分科会「令和6年度介護報酬改定に関する審議報告」(令和5年12月19日)

まとめ


訪問介護の身体拘束は、縛る行為より、言葉・環境・ご家族との関係の中に潜んでいますが、原則は禁止です。
例外は3要件をすべて満たす場合だけで、組織で確認し、記録で検証します。拘束に頼らないケアは、利用者の尊厳を守り、一人で判断を迫られるヘルパーの重圧も和らげます。

まず1つ、明日からできることがあります。「ちょっと待って」の言い換えか、帰り際に杖や歩行器が本人の移動能力と計画に合った位置にあるかの確認です。 訪問介護は、一人で現場に入る時間が長い仕事です。気づきがあっても、共有する機会を逃しがちです。

弊社のサービス「Care-wing(ケアウイング)」は、スマートフォンで記録を残し、スタッフ間で共有できる仕組みを備えています。 迷ったときに、ヘルパーが一人で抱えず、事業所で状況を共有できる体制づくりに、ICTも役立ちます。
ご興味をお持ちいただけましたら、お気軽にお問い合わせください。




<ライター> 宮田 浩行
介護福祉士7年、看護師8年、計15年以上の医療福祉経験を持つ専門家。
介護老人保健施設、看護小規模多機能、訪問看護、有料老人ホームでの勤務を経て、現在は医療福祉分野のライターとして活動。 介護と看護の両資格を活かした現場目線のわかりやすい記事で、医療福祉従事者の課題解決と質の高いケアの実践に貢献。
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