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特定事業所加算を取得後も維持するには?事務負担を減らす方法

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「特定事業所加算は取得できたのに、毎月の運用が想像以上に大変」。訪問介護の管理者から、こうした声を聞くことがあります。 研修記録が追いつかない、会議の日程が組めない、指示・報告の確認という事務負担がサービス提供責任者に集中する、運営指導で書類を指摘された。思い当たるものはないでしょうか。

この記事では、維持できなくなる理由と、ICT活用の考え方、それだけでは解決しないリスクを整理します。




訪問介護の経営環境から見る、加算を維持する重み


訪問介護では、事業所の倒産や休廃業が続いています。東京商工リサーチによると、2025年の介護事業者の倒産は176件で2年連続の最多更新でした。 そのうち訪問介護は91件と、3年連続で最多を更新しています(2026年1月9日公表)。
休廃業・解散も653件で4年連続の最多更新となり、うち465件が訪問介護でした(同1月23日公表)。

一方で、訪問介護の収支差率は9.6%です(厚生労働省 令和7年度介護事業経営概況調査・令和6年度決算)。
平均だけを見れば赤字の事業ではありません。ただし、平均がプラスであることと、個々の事業所が安定していることは別です。

前回のコラムでお伝えしたとおり、区分(Ⅰ)と(Ⅴ)を合わせると最大23%が所定単位数に上乗せされます。
加算率と収支差率は単純には比べられず、実際の増収額も区分や利用者の構成、訪問回数で変わります。
それでも、算定件数の多い事業所ほど、加算の有無が収入に与える影響は小さくありません。

加算を取得した事業所ほど、それを失ったときの影響は大きくなります。
取得できるかどうかだけでなく、取得後にどれだけ維持できるかが、経営の安定を左右します。

なぜ多くの事業所で運用が続かないのか


特定事業所加算では、「取得」と「維持」は別の話です。
算定する区分に応じて、介護福祉士等の職員割合や、要介護4・5等の利用者の割合を満たし続ける必要があります。
前3月の実績で届け出た要件は、届出後も毎月、直近3か月の割合を確認して記録に残します。

所定の割合を下回った場合は、直ちに変更の届出を提出する必要があります(平成12年3月1日 老企第36号)。
前年度の実績で届け出た事業所も、要件を満たさなくなったことが分かったときは変更の届出が必要です。
届出の様式や添付資料、提出方法は保険者ごとに異なるため、確認しておきましょう。

維持しなければならないのは、割合だけではありません。
区分(Ⅰ)〜(Ⅴ)に共通する5つの体制要件も、届出のときだけ整えれば済むものではなく、加算を算定し続けるかぎり満たし続けることが求められます。 老企第36号をもとに、維持の視点で整理します。

体制要件(全区分共通) 実施の単位・頻度 残す記録
研修計画 訪問介護員等・サービス提供責任者ごとに作成し、計画に沿って実施 研修計画、実施の記録
会議 おおむね月1回以上
(テレビ電話装置等の活用も可)
議事の要点
指示と報告 提供前に文書等で伝達し、提供後に報告を受ける 指示・報告の文書(電磁的記録も可)
健康診断 年1回以上、事業主の負担で実施
(登録ヘルパーを含む)
実施の記録
緊急時等の対応方法 利用者に対して、あらかじめ明示 明示した文書(重要事項説明書等

※スマートフォンでご覧の場合は、表を横にスクロールしてご覧いただけます。


このほか、看取り期の利用者への対応実績で算定する場合の体制要件や、区分(Ⅴ)固有の体制要件も、継続して満たす必要があります。

詳細は前編の要件一覧をご覧ください。頻度も記録の形も要件ごとに違い、この違いが次の3つの壁を生みます。

壁①:紙の運用で提出が遅れる・記入が漏れる

指示書や報告書を紙でやり取りする場合、記入から回収までに時間差が生まれます。 筆者が訪問の現場にいたころも、記入の忘れや提出の遅れは繰り返し起きていました。

直行直帰のヘルパーへ紙やFAXで一括指示を出しても、実際に読まれたか、提供後の報告が返ってきたかを確認しきれない場面もありました。 指示を出した記録だけでなく、提供後の報告まで一連の記録として残っていなければ、指示と報告の要件を満たしたと説明しにくくなります。

壁②:サービス提供責任者に業務が集中する

サービス提供責任者の負担は、統計からもうかがえます。介護労働安定センターは、令和6年度介護労働実態調査でサービス提供責任者を特集しました。

事業所が挙げた課題で最も多かったのは「担当業務に専念できる時間が足りない」の60.3%です(回答2,800事業所・3つまで回答)。1人あたりが担当する訪問介護員は平均11.3人です。 研修・会議・記録の事務は、サービス提供責任者一人に集中しがちです。

指定居宅サービス等基準第28条第3項は、利用申込みの調整や状態の把握、指示・情報伝達、研修・技術指導などを法定業務として定めています。 特定事業所加算では、これらの法定業務に加えて、所定の頻度と形式での実施記録や、割合の継続的な確認が必要になります。



壁③:要件を満たしている「証拠」の整理が追いつかない

研修記録、会議録、指示・報告の記録、健康診断の実施状況を確認する記録は、事業所によって別々のファイルや保管場所に分かれていることがあります。 日々の業務に追われるなかで、運営指導の当日にすぐ提出できる状態を保つのは簡単ではありません。 要件を満たしていたとしても、その根拠をすぐに示せなければ、確認に時間がかかってしまいます。






ハードルを下げる「ICT活用」の重要性


指示・報告は、必ずしも紙でなければならないわけではありません。指示や報告、会議でのICT活用は老企第36号や指定居宅サービス等基準で認められており、紙から移行することで「読まれたか・返信があったか」をリアルタイムで確認しやすくなります。

令和7年度介護労働実態調査(令和8年7月29日公表)によると、介護テクノロジーの導入で「昼間の業務負担の軽減」に効果があるとした訪問系事業所は48.6%で、入所型の施設系(76.8%)より低い水準です。
訪問介護は直行直帰など事業所の外で使う場面が多いため、多機能さよりも、自事業所の業務の流れに合うかを導入前に確かめる必要があります。

また、算定ルールに沿って対象者を抽出・集計できる仕組みであれば、要介護4・5等の利用者の割合など、実績で判断する要件の動きを、月末を待たずとも早めにつかめます。
ただし届出の際は、システムの集計だけで判断せず、根拠となる資料と照合することが重要です。

ICTだけでは解決しない、押さえておきたいリスク


運用を続けるための体制を、事前に作っておく

ICTツールを導入しても、それだけで問題が解決するわけではありません。 誰が、いつ、何を入力し、誰が確認するのか。このルールが事業所内で共有されていなければ、紙で起きていた記入漏れや確認漏れが、そのまま画面上に移るだけです。
ツールの導入より先に決めるのは、担当者・締切・確認の日の3つです。月初に確認する日を置き、次のような点検を回すと運用が続きやすくなります。

月次点検の例 確認すること
割合要件 直近3か月の職員割合・利用者の割合を計算し、記録したか
会議 おおむね月1回開催し、議事の要点を残したか
指示と報告 提供前の指示と提供後の報告がサービス単位で対応し、伝えるべき利用者の情報や留意事項を含んでいるか
研修 個別研修計画に対応する実施記録があるか
健康診断・緊急時等の対応方法 健康診断の実施状況と、利用者への対応方法の明示状況を確認したか

※スマートフォンでご覧の場合は、表を横にスクロールしてご覧いただけます。


不備があれば担当者へ戻して期限内に再確認し、割合要件を下回りそうなときは管理者が保険者へ確認したうえで変更の届出を判断します。 ICTで利用者の情報を扱う以上、閲覧権限やアカウントの管理、端末を紛失したときの対応も、事業所内のルールに含めておきます。 ここまで決まって初めて、ICTは運用を軽くする道具として働きます。

ルールと組み合わせてこそ、確認や記録整理の負担軽減が期待できます。

「記録」を保存するだけで終わらせない

記録は、保存するだけでは要件を満たした説明になりません。運営指導で問われるのは、記録の中身が要件を満たしているかどうかです。 研修計画はあるが実施の記録がない」と指摘された事業所の話も聞きます。
要件を満たす内容になっているかを定期的に確認し、求められたときに提示できる状態にしておく必要があります。



運営指導で不備を指摘されると、自己点検のうえ、過誤調整による返還(自主返還)を求められることがあります。
東京都の資料では、対象は要件を満たしていなかった期間の全体になり得ると示されています(東京都福祉局「特定事業所加算の算定要件の留意事項」令和6年4月1日版)。 ICTはこのリスクを減らす手段であり、なくす手段ではありません。



※参考:厚生労働省 老企第36号「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」(平成12年3月1日)・「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)第28条第3項、第217条第1項 ・「令和7年度介護事業経営概況調査結果」第4表 訪問介護 / 公益財団法人介護労働安定センター「令和7年度介護労働実態調査 事業所調査 結果報告書」(2026年7月29日公表)・「令和6年度介護労働実態調査 事業所調査 結果報告書」(2025年7月28日公表)サービス提供責任者特集 / 東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』の倒産」(2026年1月9日)・「2025年『介護事業者』の休廃業・解散」(2026年1月23日)/東京都福祉局「特定事業所加算の算定要件の留意事項」(令和6年4月1日版)

まとめ


特定事業所加算は、取得して終わりではなく、要件を満たし続けて初めて意味を持ちます。ICT活用は、そのための事務負担を軽くする手段です。 加算を「無理なく続く運用」に変えられれば、事務作業に費やしていた時間を、ヘルパーの育成や定着支援、サービス提供責任者本来の業務に振り向けられます。

特定事業所加算を含む所定単位数を基礎に処遇改善加算の加算率を乗じるため、他の条件が同じであれば、維持した加算分は介護職員等処遇改善加算の額にも反映されます。
まずは、自事業所の運用のどこが「紙」で止まっているか、担当者・締切・確認の日が決まっているかを点検してみてはいかがでしょうか。

弊社の「Care-wing(ケアウイング)」では、指示出しと報告の機能を標準で備えています。
また、各要件の情報を一覧にして管理できるオプションや、専門家が要件管理や研修計画等を伴走支援する「Care-wing 加算取得パートナー」もあります。 ご興味をお持ちいただけましたら、お気軽にお問い合わせください。





<ライター> 宮田 浩行
介護福祉士7年、看護師8年、計15年以上の医療福祉経験を持つ専門家。
介護老人保健施設、看護小規模多機能、訪問看護、有料老人ホームでの勤務を経て、現在は医療福祉分野のライターとして活動。 介護と看護の両資格を活かした現場目線のわかりやすい記事で、医療福祉従事者の課題解決と質の高いケアの実践に貢献。
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