訪問介護で失敗しないための「資金調達」ガイド
訪問介護事業において、質の高いケアを届けるために避けては通れないのが「資金繰り」という経営課題です。
本コラムでは、訪問介護の開業支援で多くの実績をお持ちの「合同会社織都」の本多雄一先生(行政書士)監修のもと、資本金の考え方から具体的な調達方法までを解説します。
資金調達に不安を感じている方、これから開業を目指す方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
なぜ訪問介護に「資本金」が重要なのか?
介護保険制度では、サービスを提供してからその報酬が国保連合会から支払われるまでに約2ヶ月のタイムラグが発生します。
たとえば、4月にサービスを提供した場合、請求は5月、入金は6月下旬となります。
しかし、スタッフへの給与は4月末も、5月末にも、支払わなければなりません。
この「無収入なのに支出だけがある期間」を耐え抜くために必要なのが、手元の資金なのです。
また、十分な資金を確保しておくことは、対外的な「信頼の指標」でもあります。 求職者やケアマネジャーは、法人の財務状況を意外と厳しくチェックしています。「すぐに資金ショートしそうな事業所」では、スタッフも安心して働けないうえ、利用者も継続的なサービスを期待できません。
なお、この運転資金は必ずしも自己資金である必要はなく、金融機関からの借入金であっても問題ありません。
実際の指定申請の際に行政に尋ねられた場合、「不足分は借入金で賄う」「経営者が個人資産から貸し付ける」といった具体的な計画があれば、受理される仕組みになっています。
訪問介護の立ち上げに必要な資金の目安
結論から言うと、300万円〜500万円が一つの目安となります。
会社法上は資本金「1円」からでも設立可能ですが、「事業を安定して継続できる能力」を証明するには、この程度の資金準備が現実的なラインとなります。
一部の自治体では指定申請時に「残高証明」等の提出を求められるケースもありますが、書類の手続き以上に、実際の運営を軌道に乗せるための「経営の体力」としてこの資金が必要になるのです。
以下では、この目安金額を、「初期費用」「運転資金」に分けて解説します。
初期費用(イニシャルコスト)
- 法人設立費用
株式会社なら約25万円、合同会社なら約10万円(※) - 事務所関連
敷金・礼金、家賃(前払い分)、内装、火災保険 - 備品・ICT環境
PC、プリンタ、介護ソフト、スマートフォン、事務机、鍵付き書庫 - 指定申請手数料
数万円程度(自治体による)
※法人設立費用について、電子定款を利用すれば、紙の定款で必要な印紙代(4万円)を節約することができます。 以前は専門家への依頼が主流でしたが、現在はマイナンバーカードを活用して個人で電子定款を作成・申請できる環境が整っているため、設立費用を最小限に抑えることも可能です。
運転資金(ランニングコスト)
ここが経営において最も重要なポイントです。訪問介護事業は、開業してすぐに収益が安定する業種ではありません。 利用者が増えるまでには一定の時間がかかるうえ、冒頭でもお伝えしました通り、介護報酬が入金されるまでにはタイムラグがあります。
そのため、運転資金は多ければ多いほど良いのが実情です。
具体的には、家賃・人件費・社会保険料・車両費・通信費などを含めて、最低でも300万円を目安に準備しておくと安心です。
たとえば、ある事業所では、開業初月の売上がわずか12万円でした。
一方で、常勤ヘルパー1名と管理者兼サ責1名の給与、事務所家賃、車両維持費などで毎月60〜80万円の支出が発生し続けました。 結果として、開業から4か月間は赤字が続き、運転資金が底を突きかけたという事例もあります。
幸い、この事業所は創業融資を早期に受けていたので事業を継続できましたが、資金計画の重要性を痛感したケースです。
訪問介護は「人件費先行・売上後追い」の構造です。利用者が増えるほど安定しますが、最初の3〜6か月はどうしても資金が減っていきます。 だからこそ、開業前に運転資金を厚めに確保しておくことが、事業を守る最大のリスクヘッジとなります。
主な資金調達の手段
自己資金だけで全てを賄えれば理想的ですが、実際には外部からの調達を組み合わせて、経営のゆとりを作るケースがほとんどです。
日本政策金融公庫(新創業融資)
創業者の強い味方といえる、公的金融機関です。最大のメリットは、実績のない創業前でも、無担保・無保証で相談に乗ってもらえる枠があることです。
民間の銀行に比べると融資のハードルが低く、低金利なのも魅力です。
2024年4月の制度改正により、以前のような「自己資金10分の1以上」という要件は撤廃されましたが、現実的には総予算の3分の1程度の自己資金を準備しておくと、審査における信頼度が増します。
信用保証協会付きの銀行融資
地元の地方銀行や信用金庫を通じて申し込む方法です。(都市銀行は小規模な創業融資を扱わないケースが多いため、まずは地域密着の金融機関がターゲットとなります)
「信用保証協会」が、実質的な保証人の役割を担ってくれるため、実績の浅い法人でも融資を受けやすくなります。将来的な地域密着経営を見据え、地元の信金とのパイプを作っておくことは大きなメリットです。
助成金・補助金
これらは融資とは異なり、原則「後払い(精算払い)」のため、初期の持ち出し資金としては使いづらいですが、経営を軌道に乗せる大きな助けとなります。- 特定求職者雇用開発助成金
高齢者や障害者を雇用した場合に受給可能。 - キャリアアップ助成金
非正規雇用のヘルパーを正社員へ転換した場合など。 - デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)
介護ソフトやタブレット導入時の費用負担を軽減。
資本金調達における注意点とリスク管理
「見せ金」は絶対にNG
家族や知人などから一時的に大金を借りて通帳に記帳し、あたかも資本金があるように見せる行為です。これは、「公正証書原本不実記載等」の罪に問われる可能性があるだけでなく、融資審査も一発で不通過となります。
金融機関は通帳の「過去数ヶ月の推移」を厳しくチェックしています。出所不明な急増資金は、プロの目をごまかせないと考えておきましょう。
過剰な借入(オーバーローン)の危険性
「借りられるだけ借りる」という考え方は危険です。常に意識すべきなのは、毎月の返済額が営業利益に対して適正かどうかという「返済比率」です。
訪問介護は人件費率が高く、利益率が極めて安定した、裏を返せば「爆発的な利益は出にくい」ビジネスモデルですので、過度な借入は、将来的なスタッフの昇給や設備投資を圧迫し、経営の首を絞めることになってしまいます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
資金調達はゴールではなく、良質なケアを提供するためのスタートです。
手元に資金の余裕を持つことは、経営者の心の余裕を生み、結果としてスタッフの定着やサービスの質向上につながります。
もし資金計画や手続きに不安があるようでしたら、介護業界に詳しい税理士や行政書士などの専門家へ相談することも検討しましょう。
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【監修】
本多 雄一
合同会社織都 代表社員 / 行政書士コンプライアンスハーツ 所長。
関西大学卒業後、1999年に行政書士登録。
2000年の介護保険施行以来、長年にわたり介護事業所の人材育成や記録書類の整備に関わり、顧問先を通じて運営指導も経験。 2025年2月より介護事業コンサルに特化した合同会社織都の代表社員を務める。
合同会社織都 代表社員 / 行政書士コンプライアンスハーツ 所長。
関西大学卒業後、1999年に行政書士登録。
2000年の介護保険施行以来、長年にわたり介護事業所の人材育成や記録書類の整備に関わり、顧問先を通じて運営指導も経験。 2025年2月より介護事業コンサルに特化した合同会社織都の代表社員を務める。
