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【前編】訪問介護事業所の設立でよくある失敗と対策ポイント(ヒト編)
訪問介護事業所の開業は、参入障壁が比較的低い一方、「3年以内の廃業率が高い」とも言われており、「資格があるから」「想いがあるから」だけではなかなか立ち行かないのが現実です。
そこで今回は、訪問介護の開業支援に精通している「合同会社織都」の本多雄一先生(行政書士)監修のもと、経営の3要素「ヒト・モノ・カネ」における失敗事例をまとめました。
前編では、そもそも設立で失敗してしまう要因と、「ヒト」に関する失敗事例をもとに、対策ポイントを解説します。
目次
訪問介護事業所の設立で失敗してしまう要因は?
経営者感覚の欠如
開業して失敗する大きな原因の1つとして、「いつまでも従業員感覚が抜けない」ことが挙げられます。従業員であれば、働いた時間分の賃金が発生しますが、経営者の場合、営業や管理業務に奔走しても、利益が出なければ自身の収入にはなりません。しかし、こうした経営を支える業務は多くの場合、経営者にしか務まらないものです。
例えば、経営者が現場のケア業務を抱えすぎてしまうと、本来取り組むべき管理業務に時間を割けなくなります。ケアはできるだけヘルパーに任せて、自らは経営者として組織の土台を固めることに専念すべきです。
「経営者の仕事と従業員の仕事は本質的に異なる」。この自覚を持つことができず、廃業に追い込まれるケースが実は多いのです。
介護保険制度の理解不足
もう1つは、「介護保険制度に対する理解不足」が挙げられます。介護保険制度は、利用者、行政(国や自治体)、事業所の三者それぞれの視点で見え方が異なり、経営を行う上では、これら3つの視点を把握しておく必要があります。
この視点の違いを理解できていないと、それぞれの言い分を理解することが難しくなり、以下のような不必要な衝突やトラブルを招くリスクが高まります。
例
- 利用者「保険料を払っているんだから、窓拭きくらいしてくれてもいいんじゃないか」 事業者「介護保険は『日常生活に最低限必要な援助』に限定されているんです」
- 利用者「もっとリハビリを増やしてほしい」 行政「要介護度に応じた上限額(単位数)が決まっていて、それ以上は自己負担です」
ここからは、経営の3要素である「ヒト・モノ・カネ」の中でも、とりわけ訪問介護事業所の生命線となる、「ヒト」に焦点を当てて、陥りがちな失敗とその対策を解説します。
「ヘルパー」の採用における失敗と対策
訪問介護では、ヘルパーの採用が最難関とも言えます。ヘルパーをうまく採用できずに指定申請を断念したり、開業間もなく廃業したりするケースも少なくありません。 以下のポイントを押さえた上で、採用戦略を立てましょう。
ポイント①:時給は適切か
開業するエリアの求人情報をリサーチし、ヘルパーの時給相場を把握した上で、自社の時給を設定しましょう。特に競合の多い地域では、時給のわずかな差が応募者数に直結します。
ただし、安易に競合他社よりも高く設定しすぎると、あとあと経営を圧迫する恐れがあるため、注意が必要です。
そのため、時給は競合他社に見劣りしない「相場相応」の水準に留め、時給以外の部分で、ヘルパーに選ばれる、魅力的な制度や仕組みを設けるのがよいでしょう。
ポイント②:安定したシフトが組めるか
ヘルパーにとって、希望するシフトが安定しないことは、離職に直結する大きなマイナス要因となります。そのため、安定した稼働を提供できる仕組みづくりが欠かせません。
具体的な対策としては、「フルタイム」という枠組みに固執せず、短時間勤務のニーズを柔軟に取り入れることも重要です。
「朝、または夕方の数時間だけ」といった隙間時間で働ける方を積極的に採用することで、結果としてパズルを組み合わせるように、事業所全体のシフトを安定させることにつながります。
ポイント③:キャリアサポートが充実しているか
キャリアの浅いヘルパーにとって、研修制度が充実しているかどうかは重要です。入社時の新人教育だけでなく、キャリアに応じた研修制度を設けましょう。 また、日々の研修に加えて、資格取得につながるサポートも必要です。例えば、介護福祉士の取得をサポートすることは、ヘルパーの意欲向上につながるだけでなく、将来的に「特定事業所加算」の要件を満たす一助となり、自社の収益基盤強化にもなります。
ポイント④:採用方法は複数あるか
突然ですが、ヘルパー採用の当てはありますか?ハローワークへの求人だけでは、なかなか人が集まらないのが現実です。かといって、人材紹介会社を利用すれば、手数料としてヘルパーの年収30~40%のコストが発生し、経営を大きく圧迫しかねません。
そこで、自社ホームページやSNS等による求人も視野に入れる必要があります。 もちろん、これらも全て外注すれば大きな費用負担となります。 低価格で依頼できるホームページ作成会社を探す、あるいはInstagramなどのSNSをご自身で運用できるように準備しておくことも、立派な開業準備です。
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「サ責」の採用における失敗と対策
サ責(サービス提供責任者)の配置は必須要件のため、決まらなければ指定申請自体ができません。
そのため、社長自らがサ責を務めるのでなければ、サ責の雇用は早めに進めておきましょう。
サ責の採用にあたっては以下のポイントに注意してみてください。
ポイント①:見極めは適切にできているか
サ責経験者からの応募があると即戦力として期待したくなりますが、経歴だけで判断するのは禁物です。サ責の職務は、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準で、訪問介護計画の作成(24条)のほかに、28条各号に定められた8項目の仕事があります。 特に、「計画作成・ヘルパー管理・状況把握・ケアマネジャー連携」の4本柱が重要です。
サ責であったという履歴だけではなく、これらの職責を果たしてきたか否かを見極める力が事業所に求められています。
その判断材料として、面接で、以下のような内容を尋ねてみると良いでしょう。
- 訪問介護計画作成におけるアセスメントの方法
- ヘルパーさんへの助言・指導で心がけてきたこと
- 自分が担当しない利用者様の情報をどのように得てきたか
- 訪問介護の現場の立場からケアマネジャーに計画変更を申し入れたことがあるか
ポイント②:サ責にとって働き甲斐のある仕組みか
事業指定を受けた後も、サ責の退職による不在は、減算や指定取消にもつながります。そのため、単に長期的に信頼関係を築ける人材の確保が不可欠です。
サ責には当然、専門知識や実務経験が求められますが、それ以上に人柄や経営者との結びつきの強さも重要です。
また、「自分が辞めたら困るはずだ」とサ責からの過度な賃上げ要求が頻発する事例もあります。
こうした事態を防ぐためにも、処遇改善加算の要件でもある「キャリアパス」を開業前から検討し、サ責が「ここで長く働き、成長したい」と思える、働き甲斐のある仕組みを作っておきましょう。
「利用者」集めにおける失敗と対策
最後は、経営の根幹を支える「利用者」についてです。開業までこぎつけたものの、「肝心の利用者が集まらない」という事態に陥るケースは少なくありません。 こうした失敗を回避するために、以下の重要なポイントを確認しておきましょう。
ポイント①:営業活動を行えているか
「開業すれば、自然とケアマネジャーから利用者の紹介が来るだろう」という楽観的な思い込みは危険です。経営において、営業活動は最優先事項だと思ってください。 地域の居宅介護支援事業所すべてに対し、丁寧にご挨拶に回るくらいの覚悟が必要です。また、ケアマネジャーがケアプランに組み込みたくなるような「選ばれる理由」を作ることも重要です。他社にはない、自社ならではの強みを明確に打ち出すようにしましょう。
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ポイント②:戦略的な情報発信ができているか
ホームページ、チラシ、SNSを効果的に組み合わせた「利用者確保の導線」を設計し、問い合わせを増やしましょう。今の時代、ホームページやSNSの運用は事業運営において必須です。
特にInstagramは、職場の雰囲気やスタッフの人柄を視覚的に伝えられるため、多くの介護事業所が戦略的に活用しています。これらのデジタルツールを使いこなせるようになるのも、開業準備の一つです。
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まとめ
いかがでしたでしょうか? 訪問介護の経営を軌道に乗せるには、単なる制度上の手続きだけでなく、採用・集客・経営者としてのマインドセットという「実務の壁」をいかに乗り越えるかが鍵となります。弊社の開業支援サービスでは、法人登記や指定申請などの直接的な開業支援だけでなく、本コラムで触れた経営者としての役割や、介護保険制度の多角的な視点での理解についても、実践的なアドバイスを行っています。
スムーズな立ち上げと安定経営のために、ぜひ本サービスをご活用ください。
次のコラムでは、「モノ・カネ」について解説します。
後編に続く
<監修> 本多 雄一
合同会社織都 代表社員 / 行政書士コンプライアンスハーツ 所長。関西大学卒業後、1999年に行政書士登録。
2000年の介護保険施行以来、長年にわたり介護事業所の人材育成や記録書類の整備に関わり、顧問先を通じて運営指導も経験。 2025年2月より介護事業コンサルに特化した合同会社織都の代表社員を務める。
合同会社織都 代表社員 / 行政書士コンプライアンスハーツ 所長。関西大学卒業後、1999年に行政書士登録。
2000年の介護保険施行以来、長年にわたり介護事業所の人材育成や記録書類の整備に関わり、顧問先を通じて運営指導も経験。 2025年2月より介護事業コンサルに特化した合同会社織都の代表社員を務める。
