介護現場における「カスハラ」とは?事例と対応を徹底解説
介護の仕事は、高齢者や障がいのある方の健康と安全を守ることが重要です。
また、利用者の尊厳を保持し、一人の人間として生き続けられるよう支援する姿勢は、職員に求められる大事な視点です。
しかし一方で、利用者やその家族からの理不尽な対応を強要される、いわゆるカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)が問題視されています。
今回は、20年以上の介護業界経験を持つ介護の専門家、寺田英史氏のご経験をもとに、介護現場で実際にあったカスハラの事例と、覚えておきたい対応方法について解説します。
目次
カスハラの定義
カスハラとは、令和7年6月11日に公布された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」で、以下の3つをすべて満たすものとされています。
- 職場において行われる、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動
- 労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境を害すること
つまり、「介護事業所の利用者や関係者の職員に対する言動が社会的に許される範囲を超えることで、職員の働く環境を悪くすること」です。
現在、企業はハラスメントを防止するための措置を講じることが義務となっており、介護事業所も例外ではありません。
カスハラから職員を守り、またカスハラの加害者にならないためにもカスハラについて、正しい知識を得て対応方法を構築しておく必要があります。
参考:厚生労働省「ハラスメント対策・女性活躍推進 に関する改正ポイントのご案内」
介護現場におけるカスハラの種類
介護の現場で起こり得るカスハラは、主に以下の3つが多いと言われています。
身体的暴力
職員に対して殴る、蹴る、物を投げる、噛みつくなど直接的な攻撃です。介助の必要のある利用者に近付かなくてはならない介護の場面では、特に起こりやすいと言えます。
精神的暴力
大声で怒鳴る、威圧的な態度を取る、舌打ちをする、業務内容以上のサービスを要求するなどが該当します。直接的な攻撃ではありませんが、職員のメンタルヘルスに大きなダメージを与えてしまいます。
セクシャルハラスメント
いわゆるセクハラ(性的な嫌がらせ)も介護現場ではしばしば起こり得るハラスメントです。不必要に体に触れる、性的なサービスを求める、性的な話題を執拗にするなど、職員の求めていない性的な行為や言動は、すべてセクハラに該当します。
また、上記3つ以外にも、カスハラは利用者からだけでなく、利用者の家族からも受ける可能性もあります。
「長時間の電話による拘束」「土下座の強要」「過剰なサービス要求」など、嫌がらせのつもりがなくても、社会的に許容できる範囲を逸脱した迷惑行為はカスハラになり得えます。
参考:東京都福祉保健局介護現場におけるハラスメントについて
実際にあったカスハラの事例
実際にあったカスハラの事例と、その時の対応方法を一部紹介します。
職員に頭突きや関節を捻るなどを繰り返す
■ 利用者の特徴
■ ハラスメントの内容
- 性別:男性
- 身体状況:片麻痺があり、経鼻栄養(鼻からチューブで栄養摂取)が必要な状態
- 認知面:認知症なし
■ ハラスメントの内容
- とにかく暴力が多く、移乗のために近付くと頭をゲンコツで殴る、
職員の手を逆方向に捻るなどの報告が上がる。 - 利用初日から多発しており、極めて攻撃性が高い。
危険ではありながらも、私達が関与しないと栄養補給もままならない方であり、男性職員だけで対応する、不必要に近づかない、職員1人で応対しないなど個別対応を設けて対応していました。
翌日、車いすに乗っていただき詰所で対応していた際、近くを通りがかった職員の腕を掴んで引き寄せ、そのまま頭突きをされました。 幸い職員に大きなケガはありませんでしたが、サービスの提供が著しく困難であると判断。ケアマネージャーに連絡を取り、退所していただきました。
過度のサービス要求と長時間拘束
■ 利用者の特徴
■ ハラスメントの内容
- 身体状況:多発性脳梗塞により、日常生活のすべてにおいて介助が必要
- 利用形態:月に1週間ほどの短期入所を利用
- 背景:こだわりの強い方で、家での介護と寸分違わない対応をご希望だった
■ ハラスメントの内容
- 施設での対応には当然限界がありつつもなるべくご希望に沿うように対応していたが、
退所日には決まって事業所へ電話があった。 - 電話ではクレームのほか、利用者に関係しない話も多く、
長い時には2時間以上も拘束されることがあった。 - 結果、退所日には管理者や正職員が電話前で待機しておくことが日常的に。
自身の親を手厚く介護してほしいというお気持ちは正当ですが、こちらのできないことも要求されること、電話での長時間での拘束が問題視されはじめ、ケアマネージャーと協議を重ねた結果、短期入所のご利用はお断りさせていただくことになりました。
利用者家族によるセクハラ
■ 利用者の特徴
■ ハラスメント内容
- 年齢・性別: 50代前半女性
- 認知状況: 若年性認知症あり
- 行動特性:男女関係なく職員に抱きつく、キスしようとするなどの報告があるも、
過度なものではなく対応可能だったので問題視はされず
■ ハラスメント内容
- 利用者のご主人が頻回に来所した際、排泄交換時の女性職員の体に触れようととすることが報告に上がる
(カーテンを閉めた空間で、職員が排泄介助で自由に動けないときを狙っての行為であり、女性職員からの嫌悪の訴えが非常に強かった)
当初、2週間のご利用予定ではありましたが、継続的なサービスの提供は困難と判断し、セクハラを理由に早期退所していただく運びとなりました。
これ以外にも色々とありますが、身体的、精神的、セクハラに該当するカスハラの事例として以上の3点を紹介しました。
かつては法的保護もなく耐えるしかありませんでしたが、理不尽な苦痛を強いることは職員の離職や人手不足を加速させます。
「仕事だから」と看過せず、組織として対応すべき課題であることは間違いありません。
事業所が取るべき対応方法
基本方針の策定・文書化
「ハラスメントは一切容認しない」といった事業所の考え方を文書で作成することが、意思の統一のためには重要です。また、作成した文書は職員への提示用だけでなく、利用者や家族相手にも提示できるものも用意しましょう。
マニュアルの作成と共有
方針が決まったら、ハラスメントを未然に防止する、発生時の対処法やルールをまとめたマニュアルを作成し、すべての職員が理解できるよう共有します。マニュアルは、実際に応対する機会の多い職員たちの意見も取り入れながら実践可能な内容で作成を進めていくことが望ましいです。
相談窓口、報告の仕組みの整備
ハラスメントが起こった際や疑われる際の相談や報告の窓口の体制を整え、迅速に情報共有できるようにします。ハラスメントは事業所全体の問題と捉えることが重要です。
介護サービスの目的、範囲の統一
ハラスメントにはしばしば、「ここまでやってくれるものだと思っていた」などの事業所側と利用者側の認識の違いが関係します。 これは利用者側の思い込みもありますが、事業所側の説明不足である場合もあります。契約書や重要事項説明書等にその旨を明記し、契約の際に文書を提示しながら説明できるよう対応を統一しておくことも重要です。
記録、共有の徹底
ハラスメントを理由に契約解除等の対応をするには、ハラスメントを受けたことを客観的に証明する必要があります。介護における客観性の証明とは記録に他なりません。ハラスメントを受けた際の記録方法を経過記録や報告書で整備し、全職員で共有できるよう体制を整えることが大切です。
職員が取るべき対応方法
即時の危険回避
職員が実際にハラスメント行為に遭った際は、まずは即座に安全な場所へ避難することが重要です。仮にそれが食事の時間で離床する必要がある際でも、ハラスメントの意思がある、認知症の「BPSD(※)」と考えられるケースに関わらず危険であることに変わりはありません。 まずは自身の身の安全を最優先に考えましょう。
(※)介護現場におけるハラスメントでは認知症の周辺症状(BPSD)によるものと考えられる暴力等はハラスメントには該当しないとしていますが、ハラスメントに該当しないからと職員が理不尽な攻撃を受ける必要はありません。
速やかに距離を取ることをルール化するなど、職員の負担を軽減することを第一に考えましょう。
迅速に報告する
職員は、ハラスメントに遭った際は迅速に担当者へ報告することが大切です。他の職員も被害に遭わないためや、事業所として早期解決を図るためにも重要です。
口頭で速やかに報告した後、報告書等で記録としても確実に残すことを徹底しましょう。
正しい知識、技術の習得
ハラスメントは受ける側にとっては当然理不尽で不快なものではありますが、その発生背景に、事業所や職員が無関係ではないこともあります。たとえば、移乗の技術が不十分で、毎回利用者が痛い思いを、気を遣って長期間我慢していた場合。
ある日を境に利用者の負の感情が爆発してハラスメントに該当し得る暴言や暴力に至ったとしたら、確かにハラスメント行為を行った利用者に非はありますが、その原因を作ったのは職員であることは否定できません。
このように、ハラスメントを防止するには職員が正しい知識や技術を習得できるように努めることも大切です。
職員起因となるハラスメントを減らしていければ、サービスの質も向上し、ハラスメントそのものも減少することが期待できます。
参考:株式会社三菱総合研究所「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
まとめ
令和8年に義務化されるカスハラへの対策は、介護事業所で働く職員の権利を守ることで離職の防止を図るだけでなく、サービスの質を高めることにもつながります。 事業所の対応方針を明確にし、職員一人ひとりが毅然とした対応を取れるよう、マニュアル等の整備を進めていきましょう。
また、ハラスメント対策には、「いつ、どこで、誰が、どのような状況だったか」という正確な記録と、それを即座に共有できる仕組みが不可欠です。 介護記録ソフト「Care-wing(ケアウイング)」では、スマートフォン一つで簡単に、かつ詳細な現場記録をリアルタイムに共有できます。 ご興味のある方は、下記より具体的な機能や導入事例をまとめた資料ダウンロードしてご覧ください。
<ライター> 寺田 英史
20年以上の介護業界経験を持つ介護の専門家。短期入所、訪問介護を経て、現在は介護保険外サービスも運営。
初任者研修、実務者研修の講師も務める。現場目線の分かりやすい記事で、介護職や介護現場の課題解決に貢献。
20年以上の介護業界経験を持つ介護の専門家。短期入所、訪問介護を経て、現在は介護保険外サービスも運営。
初任者研修、実務者研修の講師も務める。現場目線の分かりやすい記事で、介護職や介護現場の課題解決に貢献。
