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訪問介護現場におけるハラスメントに必要な対策は?事例と共に紹介

介護現場において、利用者やご家族からのハラスメントは多くの事業者を悩ませています。特に訪問介護の現場では利用者とヘルパーが1対1になることが多く、他の職員に頼りにくい状況にあります。

では、実際に訪問介護の現場でハラスメントが起こった場合に、どのような対応を取れば良いのでしょうか?今回はハラスメントの種類や実態、事例なども合わせてご紹介いたします。

1.介護現場におけるハラスメントの種類と定義

ハラスメントという言葉には、広義に「嫌がらせ」という意味があります。

一概にハラスメントといっても、現代では様々な種類のハラスメントが存在します。


介護現場において、厚生労働省はその定義として「身体的暴力」「精神的暴力」「セクシャルハラスメント」の3つを挙げています。では、それぞれについて解説していきます。

身体的暴力

身体的な力を使って危害を及ぼす行為。(職員が回避したため危害を免れたケースを含む)

  • コップをなげつける
  • 蹴られる
  • 手を払いのけられる
  • たたかれる
  • 手をひっかく、つねる
  • 首を絞める
  • 唾を吐く
  • 服を引きちぎられる

など

精神的暴力

個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為。

  • 大声を発する
  • サービスの状況をのぞき見する
  • 怒鳴る
  • ヘルパーに批判的な言動をする
  • 威圧的な態度で文句を言い続ける
  • 刃物を胸元からちらつかせる
  • 理不尽なサービスを要求する
  • 特定の訪問介護員にいやがらせをする

など

セクシャルハラスメント

意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的ないやがらせ行為。

  • 必要もなく手や腕をさわる
  • 抱きしめる
  • 女性のヌード写真を見せる
  • あからさまに性的な話をする
  • 卑猥な言動を繰り返す
  • 下半身を丸出しにして見せる
  • ヘルパーのジャージに手を入れる

など

2.介護現場におけるハラスメントの実態と影響

訪問介護の現場において、利用者から、身体的暴力や精神的暴力、セクシュアルハラスメントなどのハラスメントを受けたことのある職員は約5割、この1年で受けたことのある職員は約3割います。

 

ハラスメントを受けたことのある職員の割合(単位:%)

(上がこれまで、下がこの 1 年間(平成 30 年、(n=10112))

 

出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(職員)

訪問介護以外のサービスでも、サービス内容によって実態は違いますが、介護業界全体を通して多くの職員がハラスメントを受けている実態がうかがえます。

注:ハラスメントの実態のデータは、「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業実態調査」(管理者票と職員票の 2 種類を実施)の結果です。詳細は参考 2 をご覧ください。

なお、管理者票は、調査対象が 10,000 施設・事業所、回収率がサービス種別合計で 21.6%でした。職員票は、10,000 施設・事業所の職員を対象に、管理者等にご協力をいただき、約 10,000 人の回答を得ました。

ハラスメントの内容

訪問系サービスの現場において特徴的なのは、「精神的暴力」が他のサービスに比べてトップとなっていることです。

職員がこの 1 年間で利用者からハラスメントを受けた内容の割合(複数回答) (n=3113)

出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(職員)

訪問介護の現場では、利用者のご自宅にて1対1でサービスを行うため、人の目に入らないところでハラスメントを受けやすく、事業所としても対策が必要です。

ハラスメントによる職員への影響

訪問介護の現場ではハラスメントを受けたことにより、けがや病気になった職員は約1程度、仕事を辞めたいと思ったことのある職員は、約3割程度となっています。

ハラスメントを受けてけがや病気になった職員、仕事を辞めたいと思った職員の割合

(ハラスメントを受けたことのある方に対する割合)(単位:%)(n=5515)

出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(職員)

 

このデータを見ると、人材確保が困難な訪問介護にとってハラスメントによる事業所への影響は大きく、対策の重要性を物語っています。

3.介護現場におけるハラスメントの対策について

ハラスメント対策の基本的な考え方

厚生労働省が発表している「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」では、下記のような「ハラスメント対策の基本的な考え方」が掲載されています。

この考えを元に、具体的な対策や体制作りを検討していく必要があります。

  • 事業者は、ハラスメントを労働環境の確保・改善や安定的な事業運営のための課題と位置づけ、組織的・総合的にハラスメント対策を講じる必要があります。職員による利用者への虐待行為と同様、介護現場における権利侵害として捉えることが求められます。
  • また、職員による介護サービスの質的向上に向けて絶えず取り組む必要があります。例えば、適切なケア技術の習得に向けた研修、疾病や障害等に関する共同学習の機会の提供、個別ケースのケアや応対(コミュニケーション)の検証、組織的な虐待防止対策の推進等により、利用者・家族等が安心して介護サービスを受けることができるようにすることは、ハラスメントを含めた様々なトラブルの防止につながります。
  • 一方、個々の事業者だけで、原因や態様・程度が多様なハラスメントに適切かつ法令に即して対応することは困難な場合もあります。このため、医師等の他職種、法律の専門家、行政(保健所・地域包括支援センター)、警察、地域の事業者団体等とも必要に応じて連携しつつ、ハラスメントに毅然と取り組むことが必要です。
  • ハラスメントは、利用者や家族等の置かれている環境やこれまでの生活歴、職員と利用者・家族等との相性や関係性の状況など、様々な要素が絡み合うことがあります。このため、一律の方法では適切に対応できないケースもあります。ハラスメントが発生した場面、対応経過等について、できるだけ正確に事実を捉えた上で、事業所全体でよく議論し、ケースに沿った対策を立てていくことが重要となります。

出典:「介護現場におけるハラスメント対策(厚生労働省老健局)」

ハラスメント対応として事業者が具体的に取り組むべきこと

まず、事業者として取り組むべきことは大きく分けて3つあります。

1つ目は「体制の構築」、2つ目は「発生時の対応」、3つ目は「発生後の改善」です。

これらをそれぞれ解説します。

(1)体制の構築

「体制の構築」において以下の取り組みが必要となります。

  • ハラスメントに対する事業者としての基本方針決定
  • 基本方針の職員、利用者及び家族等への周知
  • マニュアル等の作成、共有
  • 報告、相談しやすい窓口の設置
  • 介護保険サービスの業務範囲等へのしっかりとした理解と統一

など

ポイントは、職員が安心して働けるよう「未然に防止できる仕組み」と「発生時に動ける体制づくり」を念頭に置いて構築していくことです。

(2)発生時の対応

「発生時の対応」において以下の取り組みが必要となります。

  • 職員からの速やかな報告や連絡
  • 専門機関への相談
  • 詳細な状況や要因の把握
  • 発生要因の分析

など

ポイントは、「正確な状況の把握」と「速やかな対処」です。

適切に対処が取れないと、余計に複雑化してしまうことがあるので注意が必要です。

(3)発生後の改善

「発生後の改善」において、以下の取り組みが必要です。

  • 発生事例をもとにした意見交換
  • 利用者、家族等の関係者への再周知
  • 再発防止の対応策を策定
  • 基本方針やマニュアル等の見直し

など

ポイントは「発生事例をもとに事業所全体として取り組むこと」です。

職員が自分の身に関わることなので、積極的に意見交換に参加していただくことも大切です。

訪問系サービスでのハラスメント対策事例

ハラスメントの対策を取り組むにあたって、具体的な事例がないとイメージが湧きにくいかと思いますので、いくつか対策事例をご紹介いたします。

(1)報告・対応のフローを事業所内で周知

法人 F(訪問看護)

この法人では各事業所にマニュアル(事故対応手順)が配備されています。この中にセクシュアル・ハラスメントの報告・対応フローも含まれており、入社時に必ず説明しています。(下図参照)

自分が被害にあった場合には、組織として対応してくれるという体制が明確に示されていると、職員も安心して働くことができます。

なお、以下のフローチャートのうち、加害者へのヒアリングには限界があることも十分に認識して対処をするなど、サービス種別や事業者の置かれている環境等も踏まえ、報告・対応フロー等を作成していくことが必要です。

フローチャート例

出典:「介護現場におけるハラスメント対策(厚生労働省老健局)」

(2)具体例を記載して、わかりやすく伝えている例

法人 H(訪問介護)

この法人では毎年2~3名程度の利用者が訪問介護員に精神的暴力やセクシュアルハラスメントを行っていた。

そこで職員向けの対策マニュアルの作成や教育を行うとともに、利用者・ご家族にも適切なサービス提供が行えるよう訪問介護においてできる範囲をご理解いただくとともに、弁護士と相談の上、契約書でも解除状況にあたる具体的なハラスメント事例を掲載しています。

契約書の中で、事業者側の解除権を定め、予告期間を定めたうえで解除ができる旨を明確にするとともに、契約書の別紙に解除する可能性がある行為を示すようにしています。ハラスメントに関する認識は、人によって認識が違うため、対象となる行為を具体化することで、事業者側と利用者の認識を揃える意味をもっています。

<契約を解除する場合の具体例の記載>

暴力又は乱暴な言動

  • 物を投げつける
  • 刃物を向ける、服を引きちぎる、手を払いのける
  • 怒鳴る、奇声、大声を発する

など

セクシュアルハラスメント

  • 訪問介護従事者の体を触る、手を握る
  • 腕を引っ張り抱きしめる
  • 女性のヌード写真を見せる

など

その他

  • 訪問介護従事者の自宅の住所や電話番号を何度も聞く
  • ストーカー行為

など

出典:「介護現場におけるハラスメント対策(厚生労働省老健局)」

(3)同じ訪問介護員が入り続けないように配慮

法人 B(訪問介護等)

一人の利用者が 1 週間に複数回の訪問介護を利用している場合、ハラスメントへの予防として、同じ訪問介護員が入り続けることがないように配慮しています。

また、例えば、訪問介護員が独身であるとわかると、恋愛対象と考える利用者がいるため、訪問介護員には、自身の家族構成等の個人情報を利用者に話さないように、研修等で伝えています。

新規の利用者の場合、事前に、介護支援専門員から利用者に関する情報を得て、対応する訪問介護員とのマッチングを丁寧に行うケースもあります。

出典:「介護現場におけるハラスメント対策(厚生労働省老健局)」

ハラスメント対策として事業者ができること

改めてとなりますが、介護現場のハラスメントは職員の心理負担にもつながり、事業者としても取り組むべき重要な課題です。

そのため、事業者としても適切に取り組むことで「職員が安心して働ける職場づくり」につながると考えています。

様々な対策事例や発生事例を参考に、是非事業所内でも話し合いの場を設けてみてはいかがでしょうか?

【参考資料】介護現場におけるハラスメント対策マニュアル(厚生労働省)

以下より、「ハラスメントの実態と4つの対策ポイント」についてまとめた資料を無料ダウンロードいただけますので是非ご参考にしてみてください。

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